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『鬼滅の刃』童磨と胡蝶しのぶの戦いを日本文化の視点で解説

カテゴリ: アニメ鬼滅の刃聖地巡礼扇子
胡蝶と童磨の決闘

『鬼滅の刃』の中でも特に印象的な戦いのひとつ、
それが上弦の弐・童磨(どうま)と胡蝶しのぶの対決だ。

童磨は氷の血鬼術を操り、両手に持った**鉄扇(てっせん)**で戦う。
常に笑顔を崩さず、氷のように冷たい性格。
一方、胡蝶しのぶは蝶の名を持ち、毒を武器に戦う柱。
力では劣るが、知恵と覚悟で鬼を倒す。

この「扇」と「蝶」という組み合わせは、
実は日本の伝統的な遊び「投扇興(とうせんきょう)」を思わせる構図となっている。

投扇興とは?

投扇興は、江戸時代から続く日本の遊び。
畳の上に小さな台(枕)を置き、その上に「蝶(ちょう)」と呼ばれる的を立てる。
そこへ**扇(おうぎ)**を投げて当てる。

扇の落ち方、蝶の倒れ方、その瞬間にできた“形”によって点数が決まる。
つまり、投扇興は「投げて当てる競技」ではなく、
扇と蝶の形の美しさを競う遊びだ。

投扇興

投扇興

「銘(めい)」とは?

投扇興では、落ちた扇と蝶の形の名前を「銘(めい)」と呼ぶ。
たとえば、扇が離れて落ちれば「夢浮橋」、蝶の上に軽く乗れば「花散里」など、
古典文学や自然から取られた優雅な名前が付けられている。

そして、その中でも特に象徴的な二つの銘がある。

「胡蝶」──静かな逆転を意味する形

一つ目の銘が「胡蝶(こちょう)」。
これは「倒れた扇の上に蝶が立つ形」を指す。

見た目では扇(投げた側)が勝ったように見えて、
最終的には蝶(的)が上に残る。
つまり、倒された側が最後に上に立つという、静かな逆転の象徴だ。

『鬼滅の刃』での胡蝶しのぶも、まさにこの形をなぞっている。
彼女は童磨に敗れ、吸収される。
しかし、体に仕込んだ藤の花の毒が、童磨の体を内側から崩壊させた。
結果的に、倒されたはずの蝶が最後に勝つ。
これこそ、投扇興の「胡蝶」が持つ意味と同じだ。

「めぐり逢い」──終わりに重なる形

もう一つの銘が「めぐり逢い」。
これは「扇と蝶が共に倒れ、重なり合う形」を指す。
どちらも倒れているのに、同じ場所で寄り添っている。
それは、勝ち負けを越えた“再会と終わり”の象徴です。

童磨と胡蝶しのぶも、死後にもう一度出会う。
童磨の体が崩れ落ち、魂ごと地獄へ堕ちていく。
その前に現れたのは、穏やかに笑う胡蝶しのぶの姿だった。

童磨は思わず言う。

「君のこと、好きになっちゃったかも。」

だが、しのぶは静かに笑ったまま言い返す。

「とっととくたばれ糞野郎。」

その一言で、童磨は完全に堕ちていく。
二人は一瞬だけ交わり、そして離れる。
まるで、倒れた扇と蝶が重なり合う「めぐり逢い」の形のようだった。

最後に


投扇興の世界では、扇と蝶の形が物語をつくる。

  • 「胡蝶」……見た目では負けていても、最後に蝶が上に立つ形。
  • 「めぐり逢い」……倒れた扇と蝶が重なり、静かに終わる形。

童磨と胡蝶しのぶの物語も、
まさにこの二つの形で完結している。

戦いでは銘「胡蝶」のように、胡蝶しのぶが見えない勝利を掴み、
死後では銘「めぐり逢い」のように、一瞬だけ交わって終わる。

憎しみも愛も、勝ちも負けも、
最後にはひとつの形として静かに残る——
それが、日本の美学と『鬼滅の刃』が重なる瞬間だと思います。